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理事長所信
2020年度 理事長所信

鳥の目・虫の目・魚の目 未来志向のひとづくりとまちづくり 第58代理事長 鈴木 健太

はじめに

約30年間続いた「平成」の時代が終わり、新しい元号「令和」の時代を迎えた。私たちが日々暮らし、働く、この那覇の街は人々の目にどのように写っているだろうか。昼夜を問わず国際色豊かな人々で賑わう繁華街。交通渋滞が激しい幹線道路。あふれんばかりの子どもたちの笑顔。寂れてしまった商店街。はたまた大混雑する那覇空港だろうか。
沖縄は景気が良いと多くの人々が口を揃えるが、賛否両論あるだろう。沖縄県の発表によると2018年度の入域観光客数は前年比4.4%増の999万9千人に達し、ハワイの年間入域観光客数を超えたとの報道もある。その内外国人観光客数は約300万人を占め、11年連続で過去最高を更新した。公共・民間工事の受注増や国内外観光客の需要増加などが寄与して、県内企業の景況感を示す数値も31期連続でプラスを示している。その一方で雇用に関する数値のみ全業種でマイナスとなり、深刻な人手不足が浮き彫りとなった。様々な統計を紐解いてもほとんどが好況な沖縄を表している。これらを額面通り受け取るならば、「景気の良い沖縄」には今後も多くの人が訪れ、さらに人手不足が進むということだろうか。那覇空港の第2滑走路は2020年に供用開始予定であり、那覇港第2クルーズ岸壁の建設計画も進み、新規ホテルの建設も相次ぎ、さらなる入域者を受け入れるインフラ整備は着々と進んでいる。
沖縄サミットが開催された2000年から、観光客数の増加やモノレール開通など、約20年間で沖縄が全国的に注目され、大きく変化したように、我々を取り巻く世界情勢もそれ以上に日々変化をしている。今や世界の二大経済大国と言われるアメリカと中国の関係性に見られるように、各国は自由主義から保護主義へと舵を切り始め、より自国の利益を優先する傾向が強くなっている。元来相手を慮る国民性を有してきた日本人にも、社会や隣人との繋がりよりも個人としての利益を重要視する風潮が現れてきている。これはまさに大きな価値観の変化であり、IT 技術の革新的な発達により物理的なヒトとモノの移動を除けば、いとも簡単に距離と時間を超えてより早く「欲しいものが欲しい時に」共有される時代において、今後もこの傾向はさらに強くなるであろう。今後は人工知能開発によって、現在人の手によって行われている多くの作業は AI に取って代わられ、世界中の国々で言語、価値観や社会構造の違いは国境を超えてより小さくなることは容易に想像できる。
人口30万人の中核市である那覇も例外ではない。好調な経済成長を背景として、県外や国外から多くの人が集まり、すでに様々な情報や価値観が共有されている。那覇空港を擁し、空路、海路のゲートウェイである那覇には、ますます価値観の異なる多くの人々が集まるであろう。その一方で2025年をピークに人口減少に転じる見通しとなっている。地域の住民人口が減る中で、誰もが住みやすく、持続可能な成長を続けるまちであるには、人工知能には決して埋めることのできない、「人」がつくり発展へつながる和の架け橋が必要となる。

那覇の一本松(Lone Pine)になろう

このような状況下で、我々は地域の視点から那覇の未来のあり方を、今一度冷静に考える必要がありはしないか。過熱気味な景気の裏側にある、本質を理解することが求められているのではないか。地域社会と共生する、持続可能な経済活動とは何かを自らに問うべきではないのか。好景気ゆえに埋没しまっている闇を抱える社会問題もあるのが現実であり、子どもの貧困や学力、県民所得問題は非常に深刻である。沖縄県が観光立県を掲げる一方で、オーバーツーリズムによる地域への影響が出始めていることは看過できない。安定した経済発展と地域共生を目指すために、観光の量より質への転換が求められるのは明らかで、五感を駆使して問題解決の糸口を見出す必要がある。この街で衣食住をし、生業を営む我ら青年世代が手を取り合い、真剣にまちづくり・ひとづくりを考え未来志向の問題提起を行うべきである。
マツの木の根は岩をも砕いて深く根を張ると言われ、樹高も高くその幹周りも太い。今こそ那覇の一本松となり、このまちに強く根を張り、より高く伸び、「鳥の目」・「虫の目」・「魚の目」をあわせ持ち、大局的に物事を考え未来の地域発展に取り組もうではないか。まずはこの那覇のまちを深く知り、考えることから始めよう。現状維持や前例踏襲という言葉がある。ルールを守るのは大事なことだが、ルールを変えて新しいことに挑戦することはより大事である。環境変化に順応できない生物は淘汰され、絶滅したことは過去の歴史が証明している。我々が今真剣に取り組めば数年後、5年後、10年後、30年後に必ず大きな変化を起こせる。半世紀、そして100年後の素晴らしき那覇のまちを創生するために。

世界基準の国際人材育成

国際観光都市を掲げる那覇において、語学だけでなく様々な要素での国際感覚に優れた人材育成は急務である。沖縄は要 キーストーン石として東アジアの中心に位置し、地理的優位性に恵まれているこ とは周知の通り。沖縄県が沖縄アジア経済戦略構想を目指すことも根拠は同じである。しかしながら国際的な人材育成と外国人入域客数の好調な増加とは容易に比例しない。
今後国内外の企業と人がより沖縄へ流入することが予想されるが、海外ビジネスが成功するか否か、また、対等なパートナーとなり得るか否かは、世界基準の若いビジネスプレーヤーやリーダーがこのまちに存在するかにかかっている。今こそ必要なのは、若い世代からの「第二外国語としての英語習得 (Acquisition of Non-native English as Second Language)」である。アジア諸国の急激な経済成長により、英語を母国語としないアジア圏の人々とのコミュニケーションが今後より重要になる。コミュニケーションとは、自分と他人の様々な違いを尊重しながらしっかりと認識して、共通の舞台上で語らい交流することを指す。しかしながらこのような人材は一朝一夕では育成できない。
だからこそ義務教育期間中からの使える・ ・ ・ 英語教育と国際感覚を養う・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 機会提供が求められている。
しかし忘れてはいけないのは「言語」はただの手段に過ぎないということである。母国語である日本語でよく聞き、よく考え、よく書き、よく話すことが最も大切であり、しっかりとした基礎があるからこそ第二外国語がより磨かれるのである。語学教育の盲点となりがちなこの点を見逃さずに、国際感覚を養う機会で刺激を受けながら、論理的な思考を身につけ、相手の考えを聞き、しっかりと自己主張を行う意思疎通能力が今求められている。第二外国語としての英語習得を通過点とする未来のリーダー人材育成を行いたい。
今後予想される日本の人口減少による内需、経済規模の縮小は避けられない事実である。日本の国際競争力低下、先進国においてのビジネス生産性と起業家精神の低さも直面している課題となっている。第二外国語としての英語習得と国際的に通用するビジネススキルを持つ人材育成こそが、沖縄の魅力を発信しながらアジアの経済成長を取り込み、那覇が名目だけではない観光と経済を有する真の国際都市となる方法ではなかろうか。

正しいお金の教育

日本では子どもの頃から、人前でお金について話すのがタブーとされてきた節がある。おこずかいやお年玉をもらっては、「あまり無駄遣いしないでちゃんと郵便局に貯金しておきなさい」と親に言われたことはないだろうか。少し考えて見て欲しい。なぜ郵便局に貯金するのだろうか?貯金箱に入れておいても結局は使ってしまうから。貯金をしておけば簡単に引き出すことができないので、将来必要な時に使えるように備えることができるから。このような理由だからだろうか。また、郵便局に限らずお金を預かった金融機関は、そのお金をどうしているのだろうか。しかしながら明確に答えが出ることはあまりないのではと思う。そもそもそんなこと考えたことがない人の方が多いはずである。
お金は私たちの日常生活になくてはならないもので、仕事をしてお金を稼ぎ、食べ物や服を買い、住む家の家賃を支払い、誰もが毎日のように使っている。経済活動においてもモノやサービスの対価としてお金が支払わられ、お金は世の中を回り、世界中で様々な通貨が存在している。しかし紙幣や硬貨自体には大した価値はなくただの「紙」、「金属」である。お金として意味を成すのはその国の中央銀行が信用を与えているからである。その信用がなくなれば、それらは文字通りただの「紙きれ」と「金属くず」になってしまう。債務不履行(デフォルト)や通貨切り下げに陥った世界の国々では、パンを買うのにリヤカーいっぱいに乗せられた札束の塊が必要になった。クレジットカードや電子マネーなどの普及により、今後もキャッシュレス化が急激に進んでゆくだろうが、それらはすべてお金の存在と裏付けがあるのである。
正しいお金の知識を子どもたちが学ぶことは、未来の地域発展において大変重要である。お金は大切であるが、すべてではない。お金のためだけに働くのではなく、お金は生活の手段でしかない。お金は人を幸せにすることもあるし、時として残酷に普段は見えない人間の本性を露わにすることさえある。お金の正しい知識は、自分の生活をコントロールして、人生設計することを助け、お金を味方につけることができれば、良い地域社会を作っていくことにつながる。子どもたちが大人になった時、経済的に自立して、夢を持ちながら社会での役割を果たすことが、明るい社会の実現には重要では無いのか。社会保障費が国家予算の約三割を占め、高齢化社会が進行している今、年金制度が将来維持できるかは不明瞭でしかない。例えば、将来この国の人口減少が続き、十分な年金を賄うことができなくなった場合、「正しいお金の知識」により、お金を正しく理解し、使い、守り、殖やすことにより自力で何とかすることが少しでもできるならば、現在の枠に囚われない新たな豊かさがこの国や地域に創造されるだろう。
幸いにも沖縄には多くのヒト・モノ・情報が現在集まっている。経済活動には必ず金融が必要となる。新たにより強固な金融機能が沖縄に加われば、より私たちの住むこの街はより力強く発展を続けることになるだろう。その答えのヒントはシンガポールにあるかもしれない。わずか奄美大島や東京23区ほどの国土面積に約570万人が暮らし、一国の中に英語、中国語、マレー語、タミール語と四つの公用語がある。面積は那覇市のわずか18倍足らずであり、狭い国土で資源は限られている。水、ガソリン、食料等は隣国からの輸入に依存していながら、国民一人当たりの名目国民総生産(GDP)は世界第26位である日本の1.6倍となる世界第8位。ヒト、モノ、情報、金融の集積が綿密な計画によって行われ、多民族、多言語が交わる本当の意味での万国津梁を実践している国家ではないだろうか。未来を考えた時、沖縄が学ぶことは多い。子どもたちが夢を持ち幸せになるための、正しいお金の教育は必要である。

那覇の都市交通問題

私たちの住む那覇市は、全国で最も交通渋滞がひどいという調査結果が出ている。モノレールが走ってはいるが、その他の公共交通は路線バスのみであり、マイカー社会による慢性的な渋滞は県民の日常生活のみならず、観光や物流、産業に大きく影響している。沖縄県のゲートウェイである那覇空港も、沖縄本島の最南端に位置し、どこに移動するにせよ那覇市を通過しなければならない。朝のラッシュ時那覇市へ通勤する車の約92パーセントが一人乗りというデータもあり、県民の自動車依存から公共交通へ誘導するソフト対策をより積極的に行う必要性がある。観光客にとっても、沖縄に来たらまずはレンタカーという意識が働くことは容易に想像でき、沖縄本島内には約2万台以上のレンタカーが登録されている。その一方でこのマイカー社会は戦後取り残されたままの交通体系とも言える。これまでも鉄軌道の導入に関する多くの調査事業や検討が行われているが、未だ導入に至っていないのは、マイカーを毎日利用している県民市民の心にその必要性が響いていない現れとも解釈できるし、公共交通機関の利用者を増やすためには、自家用車を使うよりも実際に「楽」で「便利」で「安く」、「環境にも良い」というメリットが、県民市民間の共通認識とならなくてはいけないと考えられる。路線バスについても、ドライバー不足が喫緊の問題となっており、今後の路線や便数維持は非常に不透明な情勢と言わざるを得ない。渋滞に関係なく時間通りに流れる公共の乗り物は大きな魅力であり、多くの問題を解決する糸口になるのではないだろうか。かつて戦前には軽便鉄道が現在の那覇バスターミナル付近から与那原、糸満、嘉手納に向けて走っていたことを忘れてはならない。客車、貨車があり通勤通学の足のみならず、物流網としても機能しており、当時の産業振興に大きく寄与したと記録が残っている。
海外の魅力的な観光都市は必ずと言っていいほど、地下鉄や LRT などの定時性を有する公共交通機関が充実しており、住民のみならず観光客も安価で便利な交通機関を使ってその町を回り楽しむことができる。国際観光都市を掲げる那覇市においても、成長の潜在性を最大限発揮するためにも、より魅力的で効率的な公共交通機関導入は必要ではなかろうか。渋滞で毎日大変と感じている市民がほとんどであると思われるし、渋滞の緩和は観光客だけが恩恵を受けるのではなく、地域の住民が最もメリットを受けるはずである。また、例えば鉄軌道や LRT と自動車の連携など、沖縄を優れた交通体系の地域として、世界のお手本になるような施策も可能だと考えられる。数十年先の那覇の未来を考えるならば、産業振興のさらなる起爆剤となるべく、スピード感を持った公共交通機関導入による渋滞緩和の取り組みは急務である。交通網は人間の身体に例えるならば、血液に置き換えられる。血液が身体のどこかで滞れば命の危険に直結する。我々青年会議所の手で一歩一歩着実に実現に向けてアクションを起こしてゆきたい。

青年会議所のサポーターづくり

青年会議所の存在意義とはいったい何であろうか。会員自らが手弁当で会費を持ち寄り、地域の社会を良くするために、様々な問題点や課題点を鋭く捉えて、自らの手で事業構築を行う。理念を共有する組織体で運営を行うが、その反面言ってしまえば青年会議所のみで自己完結、自己満足してしまう危険性をはらんでいる。時の東京商工青年会議所チャーターメンバーである、三輪善兵衛先輩の現役 JC 宛の手紙の一節にはこう記してある。

「外部から見える JC は、ある時には誠に不可解な団体であり、ある時には誠に気になる団体なのです。」

JC という大人の学び舎で修練と挑戦を繰り返しながら、社会運動や事業という目に見える形で社会に対して「アクション」を起こし、その後の「リアクション」が社会からあった時、JC はきっと不可解な団体から気になる団体に変わるのであると、この手紙から強く思う。これは自分自身が多くの仲間に助けられて事業をやり抜いた後に、実際に強く感じたことである。
地域社会から必要とされ、地域社会のための組織であり続けるために。あらゆる人と触れ合い、切磋琢磨し、実力を身につけ、地域のリーダーを育成し続けるために。これらを青年会議所として実行するには、外部協力者であるパートナーと、活動する会員双方のサポーター作りが必ず必要になる。キャッチボールがひとりでできないように、相手がいない「リアクション」はあり得ない。「鳥の目」・「虫の目」・「魚の目」をあわせ持ち固定観念を捨て、地域社会のパートナー開拓が絶対に不可欠である。この両輪があってこそ青年会議所の活動が継続でき、またこの組織体が進化していく唯一の方法であると考えられる。現役会員においては支払う会費に値するメリットが必ずあって然るべきで、その形は青年会議所の活動を通して得られる自身の成長であったり、ビジネス機会であったり三者三様。この実感したメリットを現役会員が新たな会員拡大に用いることによって、新たな仲間が絶え間無く増え、社会への「アクション」を起こし続けられることにつながる。那覇市には約18,000もの事業所があり、昼間の就業者数は15万5千人に達する。従前の会員拡大手法として、縁故が用いられることが多かったが、これらの統計にも目を向け、新たな拡大手法にも挑戦して青年会議所自体のプレイヤー兼サポーターの輪を積極的に広げてゆきたい。最も重要なのはまず自分たちを知り、そして地域を知ることである。

「上善如水」
上善は水の若ごとし
水は善よ く万物を利して争わず、
衆人の悪に くむ所に処おる、故に道に畿ちかし。

これは中国古代の哲学者、老子が残した言葉、「上善如水」の一節である。
諸説あるが、「最上の善なるあり方は水のようなものだ。水は、あらゆる物に恵みを与えながら、争うことがなく、誰もがみな厭だと思う低い所に落ち着く。」と解釈できる。川の流れに例えるならば、水は上流から海原へ流れ込むまで、重力に反することなく川を下りその旅路を止めない。地形に沿って水はその形を変え、恵みを与え続ける。我々日本人が忘れかけていることではなかろうか。
令和元年に創立60周年を迎えた那覇青年会議所も同じく、先輩達が絶え間なく築き上げてきた大きな河の流れである。水はその流れで大きな石をも動かし、山肌を削り、岩に穴を開けることもできるだろう。けれども水の流れに手を触れても何も残らない。これこそが JC の在り方であると考える。この激動の現代社会を曇りなき己の眼でしっかりと見定め、水の如く力強く柔らかに、未来という海原を目指して地域の人々のために活動して行きたい。たとえそれぞれが小さな川の流れであったとしても、同じ方向へひとつに集えば大きな河になると信じて止まずに。
自分のペースで決してあきらめず、互いに決めたゴールに向かって前進しよう。歩いても、走っても、時には止まっても、前に進み続ければ必ず到達することができる。昨日よりも今日、今日よりも明日、明日よりも未来に向けて変化を起こそう。大きな夢を語ることから始めよう。